【第4回】データモデルとメジャーの活用 ― DAXで“関数不要の集計”を実現する
前回はPowerPivotの仕組みやリレーションを紹介しました。 今回はその続きとして、モダンExcelの中心であるデータモデルとメジャー(DAX)を詳しく解説します。
Excel初心者でも「これならできる」「自社でも使えそう」と思えるように、実務で役立つ例に絞って紹介します。
■ データモデルとは?Excelが“データベース”になる機能
データモデルは、Excelに搭載されたデータベース構造のことです。
通常のExcelは「シートに表がある」だけですが、データモデルに取り込むと、以下のメリットが得られます。
- 100万行以上でも重くならない
- 複数の表をリレーションでつなげる
- DAXで自由自在に集計できる
- PivotTableの集計が高速になる
つまり、Excelが“簡易データベース”になるイメージです。 企業の売上、在庫、勤怠、発注など、バラバラのデータをまとめることができます。
■ メジャーとは?PivotTable専用の計算式
Excelにはセルに入力する関数がありますが、メジャーはPivotTable専用の集計式です。
例えば、売上合計を求める場合、DAXではこう書くだけでOKです:
売上合計 = SUM(売上[金額])
メジャーは、関数のように表に書き込む必要がなく、 PivotTableの中で自動で計算されるため、表が壊れません。
■ 初心者でも使える!最低限覚えておくべきDAX 3つ
① SUM(合計)
SUM(売上[金額])
② CALCULATE(条件付き集計)
CALCULATE( SUM(売上[金額]), 売上[店舗] = "東京店")
③ DIVIDE(安全な割り算)
DIVIDE([売上合計], [顧客数])
この3つを理解すれば、ほとんどの実務は対応できます。
■ 実例① 月次売上・前年比・前年同月比
DAXの本領が発揮されるのが「タイムインテリジェンス」です。 日付テーブルを用意すると、次のような強力な集計が可能になります。
● 前年同月比
前年売上 = CALCULATE([売上合計], DATEADD('日付'[日付], -1, YEAR))
● 前年同月比(%)
前年同月比 = DIVIDE([売上合計] - [前年売上], [前年売上])
これが自動計算されるため、月が変わってもメンテナンス不要です。
■ 実例② 累計売上(YTD)
累計売上は、どの企業でも使われる代表的な指標です。
これもDAXなら1行で作成できます。
累計売上 = TOTALYTD([売上合計], '日付'[日付])
日付テーブルさえあれば、毎月の集計が自動化されます。
■ 実例③ 第1四半期を“4月開始”に調整する方法
Excelの標準四半期は「1〜3月=Q1」。 しかし日本企業では「4〜6月=第1四半期」で運用している企業が多いです。
PowerPivotでは、日付テーブルに次のDAXを設定するだけで、会社独自の四半期を作れます。
FiscalQuarter = FLOOR((MONTH([日付])+8)/3)+1
さらに、年度も次のように設定できます:
FiscalYear = IF(MONTH([日付]) < 4, YEAR([日付]) - 1, YEAR([日付]))
企業独自の会計年度・四半期に完全対応できるのはモダンExcelの大きな強みです。
■ 実例④ 勤怠データをデータモデル化する(事務の自動化)
PowerQueryで取り込んだ勤怠データ(打刻ログ)を、 データモデルに流し込むと、以下の分析が一瞬で出来るようになります。
- 社員別残業時間
- 部署別の勤務傾向
- 月ごとの労働時間
- 休日出勤の集計
VLOOKUPやIF関数を何十行も使っていた頃とは比べ物にならないほど、 メンテナンスしやすい形になります。
■ 実例⑤ 日報・発注書の自動データベース化
PowerQueryで「フォルダ監視 → 自動取り込み」を行い、 PowerPivotで「集計 → レポート化」することで、次のような自動化が実現します。
● 日報の自動集計
日報(Excel)がフォルダに入ると、データモデルへ流れ込み、 「作業時間」「生産性」「案件別稼働」などが自動表示。
● 発注書の自動集計
発注書が増えるほど、リアルタイムに集計レポートが強化されます。 発注漏れチェックや月末集計の自動化も可能です。
これらはモダンExcelだけで完結し、特別なシステム導入は不要です。
■ “関数多用のExcel”から完全に卒業できる
DAXを使ったメジャーは、Excelの従来の関数に比べ、圧倒的に壊れにくく、 社内での引き継ぎも容易になります。
特に、
- VLOOKUPの嵐
- IF関数の入れ子地獄
- シートをコピーすると壊れる
これらの“Excelあるある”が根本的に消えます。
企業内のExcelが安定し、誰が触っても再現性の高いレポートが作れる仕組みになる―― これがモダンExcel最大の価値です。
■ ReadBellの「モダンExcel構築サービス」
データモデルやメジャー構築は奥が深いため、最初の設計でつまずく方が多い領域です。 ReadBellでは以下の支援を提供しています。
- データモデル設計(リレーション・日付テーブル構築)
- DAXメジャー作成(前年比・第1四半期調整・累計など)
- PowerQuery+PowerPivot連携の自動化フロー構築
- 勤務表・日報・発注書の自動データベース化
- Excelマクロ(VBA)による補助機能追加
中小企業の「Excel業務の属人化」「作業時間の削減」に強いソリューションを提供しています。
■ 次回予告:第5回は“外部データ取り込みの本格活用”
第5回では、モダンExcelの醍醐味である
- Access
- SQL Server / MySQL
- 複数Excelファイル
- CSV/PDF
など、さまざまなデータソースとの連携を徹底解説します。
Excelが「データ分析の中心」になる世界をぜひお楽しみに。

